食文化という言葉があるほど、食というものは長い年月の間に文化と言っていいほどの知識が積み重なったものだ。

その食文化の中に、合食禁(がっしょくきん)というものがある。いわゆる「食べ合わせ」だ。

これを破ると体調を崩すこともある。長い年月の間に、何人もの「腹を壊した」人々の犠牲の下に、積み重なってきた知恵だ。

天ぷらと冷たい水は、水と油だから消化が悪い。柿と蟹は体が冷える。ウナギと梅干しは脂と酸味がけんかするから。色々ある。また、贅沢だからやめた方がいいという理由で含まれるものもある。たとえば、ふぐとおこわなどだ。

これから僕が書こうとしている組み合わせは、合食禁には含まれないが、もしかしたら数百年後に含まれるかもしれない。これから「腹を壊す」人々の勇気と知恵に期待しよう。

さて、その組み合わせとは、「フォアグラと吟醸酒」だ。

昔、僕が金融マンだったころ、ニューヨークのセントレジス・ホテルの三つ星フレンチで、日本からのお客様を接待したことがあった。そのときメインで食べたのは牛ヒレ肉とフォアグラのミルフィーユ仕立て。ありがちな贅沢料理だが、それなりに美味だった。

赤ワインと一緒に美味しくいただき、それで終われば良かったものを、僕のボスが「ニューヨークでも美味しい日本酒が飲めるんですよ」などと話し始め、悪い予感がしたら、案の定、では行こうということになった。

僕たちが向かったのは日本酒が数十種類置いてある日本酒メインのバー。フォアグラをワインと一緒にたらふく食らった後に、僕は「がまんして」日本酒をいただいた。日本酒が食後酒になるもんか!日本酒がかわいそうではあったが仕方がない。

本来はもっと美味しくいただけるはずの純米大吟醸を口に含むと、先程食べたフォアグラとけんかする。その風味というか、何というか、とてもとても嫌悪感を感じた。以来、僕は数年の間、フォアグラを食べなかった。(日本酒は飲んだ。)

食べ合わせを考える目的は体調を壊すといけないからではあるが、さらに大切なのは、美味しくいただく工夫として大切だから。逆に、併せると1+1=3になるような組み合わせもある。何をどう併せるか、料理や食事を楽しむときにとても大切な視点だ。